話すことの原動力

2月3日(水)

会話の時間が始まるのを待ちかねていたように、失語症のAさんがある芸能人の話で口火を切りました。ご利用者3人、ST(言語聴覚士)2人の会話テーブルです。全員が話題に乗るか乗らないかのうちに、Aさんは紙に「刺」と書き、鉛筆を持ったまま続きを書きあぐねています。

ST「刺…。もしかして、刺青ですか?」(言いながら紙に書く)
Aさん「そうそう!」(大きくうなずく)
Aさんは立ち上がり、シャワーを身体にかけるような身振り。
ST「えっ?シャワー?」
Aさんはうなずくかわりに、立ったまま両肘を脇につけて静止の姿勢です。
ST「サウナ?」
Aさん「そう!!」
ST「サウナで裸になった時、人に見られて、その話が外に出た、ということですか?」
Aさん「そうそう!」
続いてAさんは相撲の仕草をしてから、「輪」と書きました。
ST「輪…。輪島?」
Aさん「そう!」
今度は相撲の輪島や貴ノ花の人柄を想像させる裏話を、身振りを中心に表現され、別の大物力士も頭に浮かんだ様子でした。しかし名前が思い出せません。すると、相撲の好きなBさんが、ゆったりと一声発しました。
Bさん「北の湖」
Aさん「そう!!」
このテーブルのもう1人、失語症のCさんは、この日は聞き役に回り、話に出てきた語句をその都度繰り返し発音して、口の動かし方を確認しました。普段はCさんに話すよう促したり、質問したりするAさんですが、今日は30分の間「みんなに伝えたくてうずうずする気持ち」を原動力に主導権を握り続け、表現しきった!という良い表情になりました。