私の苦手

言葉のデイケアは毎回、スタッフが提供する時候の話やひとりひとりが姓名をはっきりと言う「自己紹介」など、
参加者全員による「顔合わせ」で始まります。
10分間ほどの短いものですが、参加者の気持ちと口(くち)をほぐします。さらに、その日のグループ会話や
リハビリ訓練のテーマへとつながる流れを作ることもしばしばです。
さて、この日の時候の話は前々日の深夜に轟いた雷のことでした。
参加者のほとんどが目を覚まし、息をひそめて鳴りやむのを待ったと話されましたが、何も知らずに眠っていた
という猛者(もさ)も2~3人おられました。
雷は、仕組みがわかっている現代でも、いや、わかっているからこそ、危険で恐ろしいものと感じられ、雷を
「苦手」と言う人も少なくありません。
続くグループリハビリに用意しておいたゲームのテーマは「私の苦手」で「顔合わせ」の支流のようになりました。

ゲームの手順は「私の苦手は、ある(   )です」の(   )に入れたいことを、
まず「生き物」「食べ物」「場所」「行動」の4つの分野から選んでいただきました。
例として2人のスタッフが各自の4つの分野の苦手を明かしたあと、参加者の発言を待ちました。
ほどなくAさんが司会者に視線を合わせました。
「Aさん、苦手なのは4つのうちのどれかを、まず教えて下さい」
「生き物です」
「では、Aさん以外の3人のかたがたに、お聞きします。一般的に人が苦手とする生き物を挙げて下さい」
ひとりが百足、2人が毛虫でした。

司会者「Aさん、苦手なのは百足か毛虫ですか?」

Aさん「違います」

司会者「では、ヒントを下さい」

Aさん「人がよく飼っている生き物です」

Bさん「犬?」Cさん「猫?」Dさん「鶏?(これはハズレだろう、の表情で)」

Aさん「猫が当たりです。」

 そう言えば「顔合わせ」で、深夜の雷の間、Dさんは飼い猫が腕の中にうずくまっていたと話しておられました。
Aさんはこれを聞いておられたはずなので、この後DさんとAさんの猫をめぐる話に進むかなと思ったところで
終了時刻となりました。
司会者は、ほっとした感じと惜しかったという感じが綯い交ぜ(ないまぜ)の気持ちになりました。
またCさんは先日、別のグループで(自分には苦手な生き物など)「ない、ない」と言われるだけで
具体的な発言がありませんでしたが、今日の「“一般的に”人が苦手とする生き物は?」に対しては、
すぐに百足を挙げました。
問いの立て方で発言しやすさが変わることをあらためて示してもらいました。