初心忘れるべからず[1]

ごあいさつ

西広島リハビリテーション病院
病院長
岡本 隆嗣
はじめまして!このブログは患者さん、ご家族の方、一般の方、そして職員にも、 当病院のことをもっと身近に感じていただきたいという思いで作りました。 日々の出来事の中で私が思ったことをつづっていきたいと思います。
現場で新入職員さん達が初々しい姿で働いているのを見ると、自分が働き始めた時のことを思い出します。今回は、私が最初に受け持った患者さんの話をしたいと思います。
私が働き始めた平成13年は、まだ古い研修医制度でしたので、1年目から自分の志望科に配属されました。私は大学病院のリハビリテーション病棟で研修医としてスタートしました。しばらくは、上の先生にくっついて仕事をしていましたが、丁度7月になる頃、初めて主治医として患者さんを担当することになりました。

その患者さんは、画家でした。高名な油絵の先生で、全国各地にお弟子さんがおられました。忙しく飛び回っている時、脳卒中で倒れました。その時血圧は200以上だったそうです。リハビリ病棟に入院された時、画家の命である筆を持つ右手が麻痺し、そして右足も麻痺があり、呂律もうまく回らない状況でした。幸いなことに、判断力や記憶力などは保たれていました。入院の時、何をお話ししたか細かいことは忘れましたが、「もう一度絵を描けるようになりたい」と呂律の回らない言葉でしたが、一生懸命そのことをおっしゃったことを、今でも鮮明に覚えています。

 

まだリハビリ医としてスタートしたばかりで、分からないことも多かったのですが、とにかくできることは何でもやろうと思いました。上の先生にいろいろと質問をしながら、毎日リハビリの教科書や血圧管理などの内科の本を読みました。やがて、手も足もある程度の麻痺が残るであろうことが分かりました。しかし、その当時の私には知識も経験も無く、画家であるご本人に何と言って伝えるべきか、毎日悩んでいました。
ある日病室に伺うと、「先生、紙と鉛筆を持ってきてくれませんか」と言われましたので、何か描きたいのだろうと思い、小さい画用紙と鉛筆を持って行きました。置いて立ち去ろうとすると、「先生、5分くらい時間がありますか」と、私にそこに座るよう言われました。患者さんは動く方の左手で、サラサラと私の顔を書き始め、ものの3分で、利き手ではないのに、それはもう上手に私の顔を書いてくれました。「先生、プレゼントしますよ」と初めて心からの笑顔を見せてくれました。
今考えると、回復が思うように進んでいないことは、患者さん自身が分かっておられ、私が悩んでいる頃、ご本人はすでに左手で絵を描くことを考えておられたのかもしれません。我々が思っている以上に、患者さんは生活の中で工夫をしておられます。我々は、それを学ばなければならないでしょう。
その後のリハビリのことは、次回お話ししたいと思います。