始まりの情熱をずっと

ごあいさつ

西広島リハビリテーション病院
病院長
岡本 隆嗣
はじめまして!このブログは患者さん、ご家族の方、一般の方、そして職員にも、 当病院のことをもっと身近に感じていただきたいという思いで作りました。 日々の出来事の中で私が思ったことをつづっていきたいと思います。

 今年は3月中旬の冷え込みにより、桜の開花が例年より少し遅れましたが、4月1日の入社式に合わせるかのように、当院入口の桜が満開を迎えました。今年も多くの新入職員が当法人に入社し、入社後すぐに2週間の教育研修を受けました。初日の接遇研修から始まり、医療安全や感染対策、法人の沿革や過去の様々な事例など、理念やリスク、業務を行う上での基本事項を学んでいきます。

 

 私は毎年「朋和会の目指すリハビリテーション」という題で2〜3時間の講義を2回担当しています。講義では、このブログに毎月書いているような身近な出来事や自分の経験を題材に話をするため、あっという間に時間が過ぎてしまいます。

情報を伝える際に心がけているのは、文字や言葉による「デジタル」的な情報と、情景や感覚に訴える「アナログ」的な情報をバランスよく届けることです。例えば、何かの事故を防ぐためのルールを教える場合、マニュアルや手順といったデジタル的な情報に加え、事故の背景や現場の情景が想像できるようなアナログ情報も合わせて伝えます。デジタル情報は要点が明確な反面、量が増えると分かりにくくなり、アナログ情報は直感的に理解しやすいものの、ポイントがつかみづらく忘れやすい、という特徴があります。文字ばかりのスライドと、イラストばかりのスライドを思い浮かべてみると分かりやすいでしょう。このブログは文字ばかりですので、広報担当者が描いてくれるイラストに、いつも助けられています。

 

 人間は「論理的な左脳」と「直感的な右脳」の両方で情報を受け取り、「脳梁」という左右の脳をつなぐ神経ネットワークで情報をやり取りしながら理解を深めます。行動する時も同じで、両者のバランスが重要です。「頭じゃ分かっているけど体がついてこない」経験は誰もがあることでしょう。理屈だけでなく、動機や感情を持ち続けることこそが成長の鍵となります。

 2週間の研修を終え、法人全体で開催した「新入職員歓迎会」の締めの挨拶で、私は新聞のコラムで読んだサッカーの三浦知良選手の言葉を新入職員に贈りました。

新しく社会人になる若者がいて、新しい職場で挑む人もいて、始まりの季節はエネルギーに満ちている。あのエネルギーが1年持続したら、優勝できるのにといつもながら思う。やがてモチベーションの差があらわになる。顔つきも違いが出てくる。3ヶ月前、組織にみなぎっていたあのエネルギーはどこへ行ったんだと、思うこと多々ありで。

働けば、理不尽なことにも出くわす。理想と現実の壁にぶつかる。正義をふりかざすだけじゃ通れない。学校の勉強であれば、自分との戦いに頑張ればテストの点数も成績も上がるだろう。でもサッカーでは、相手がある。仕事でもそう。自分として「これはいい」はずのことが否定される。納得いかない。投げ出したくもなる。

皆さんの仕事人生にも、こうした「なのに」がついて回ることだろう。そこで腐ったら終わりだし、諦めたらそこまで。やり続けるしかない。大事なのは、自分の軸にちゃんと戻れるかどうか。これでやっていけるという柱を持てているか。

「僕はプロとして40年近く生きていますけど、なりたてのあの頃の情熱、悔しさ、喜びは今も変わっていません。皆さんも今の心持ちを大事に持ち続けてください」。新人の方々へ贈った言葉に付け加えるとすれば、自分の中に軸を、つくってください。世の中の理不尽くらいでは倒されることのない強い柱を、育て続けてください。
日本経済新聞 2025年4月11日 三浦知良 コラム:サッカー人として「始まりの情熱をずっと」(一部略)

 新入職員は、2週間の教育研修の終了日に、一人ずつ決意表明を行います。私は毎年、それを聞くのをとても楽しみにしています。今年もまた、やる気に満ちた言葉から“情熱”がしっかりと伝わってきました。

 この先壁にぶつかったら、私は2つのことをお勧めします。1つは最初の決意表明を思い出すなど、自らの初心や最初の情熱を再確認すること。もう1つは退院した患者さんに会い、話をすることです。外来や通所、自宅への訪問など様々な機会がありますが、自分の仕事が誰かの地域生活に役立っていることを実感し、そうした医療者としての原点が、きっと前に進む大きな力になるでしょう。