“情報”もバランス良く・・・
ごあいさつ

病院長
当院の患者アンケートでは、「カレー」「ラーメン」「お好み焼き」といった給食メニューが特に人気です。入院生活は何かと制約が多く、ストレスもたまりやすいため、こうした“お楽しみメニュー”を味わう時間は、至福の時間なのでしょう。
しかし普段は、栄養課が塩分控えめで栄養バランスのとれた献立を工夫し、提供しています。「栄養バランスの取れたメニューで、退院後にどのようなものを食べたら良いか勉強になりました」といった感想を読むと、食を通じた健康に対する自己管理の意識が高まったことが伺え、治療をする立場として大変嬉しく感じます。
日本では小学校の頃から「食育」が行われ、炭水化物・タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラルといった栄養素を「バランス良く」摂取することの大切さを、多くの人が理解しています。「飽食」の時代、外食やジャンクフードといった好きなものばかりを食べていては、やがて身体を壊してしまいます。健康のためには、栄養バランスを意識した食事が必要です。
この考え方は、食事だけでなく「情報」にも当てはまるのではないか・・・、そう考え、「情報的健康(インフォメーション・ヘルス)」という概念を提唱しているのが、東京大学の鳥海教授と慶応大学の山本教授です。
「情報についても製造者や信頼性を確かめて『偏食』なくバランスよく摂取する意識を高めることが重要だ。情報的健康は偽情報などへの『免疫』獲得につながり、個人が情報過剰社会を生き抜く前提になる。刺激物ばかり薦めるプラットフォーマーや、バズれば真偽はお構いなし、という発信者に対して市場の圧力を高めることになる」
私が子どもの頃は、新聞・テレビ・ラジオなど限られたメディアが主な情報源であり、情報は専門家や報道機関を通じて提供されていました。現在はスマートフォンやSNSの普及により、誰もが簡単に情報を得たり発信したりできるようになった一方で、誤情報や偏った意見が拡散しやすく、日常生活だけでなく政治の場面でさえ大きな影響を与える時代になりました。自分の主張を正当化し、注目を集めるために、内容の真偽を厭わず発信される情報も少なくありません。
現代は欲しい情報が欲しいだけ手に入る「情報爆発」の時代です。しかし、自分の好みに合う偏った情報ばかりを摂取していると、思考や感情のバランスを崩し、心の健康を損ねるおそれがあります。情報を収集する際は、スーパーで生産地や食品添加物を確認するのと同じように、「その情報がいつ、どこから、どのような根拠で発信されたものか」、といった情報の真偽を見極める力、すなわち「情報リテラシー」を身につけることが不可欠です。
子どもの頃から「情報の産地や鮮度、添加物(バイアス)に注意を払い、バランス良く摂取する」ということを教え、「自分の情報的健康は自分で守る」という意識を育てていく。これは、これからの社会においてますます重要になると感じています。
