生活期リハビリの役割 〜手をかけて良くする〜
ごあいさつ

病院長
以前このブログで「回復期リハビリの役割 ① 〜手をかけて良くする〜」についてお話しました(2015年7月)。今回はその続きではありませんが、その生活期ver.です。今年最後のブログになりますが、どうぞお付き合いください。
今年もあっという間に日が過ぎ、12月末になりました。私は毎年12月の中旬から下旬にかけて、地域連携室の担当者と一緒に、日頃お世話になっている急性期の病院へ年末のご挨拶に伺っています。この時期は急に寒くなり、脳卒中や骨折、また感染症が増える季節でもあります。
去年までは、病院間の連携や感染対策が主な話題でしたが、今年はどの病院も共通して「人手不足」という言葉が聞かれました。
医療・介護業界はこれまで、厚生労働省の施策の後押しもあり、より良いサービスを提供するために“マンパワー”を増やしてきました。しかし、若年層の減少や物価・賃金の状況を踏まえると、今回は厚労省も「これまでのように良いことのためなら人手や費用を増やしても良いとは言いにくくなった」と述べ、来年度の報酬改定に向けて人員基準の見直しが行われています。
全体としてはプラス改定になることが決まりましたが、そのほとんどは賃上げや物価対応に充てられます。高齢化が進み、介助を必要とする方が増える一方で、看護師や介護士をはじめ、対応する人材の確保は年々難しくなってきているという厳しい現状があります。どの病院・施設も、今の人手を維持できれば御の字という状況で、今後の働き手の不足は深刻な課題です。
当法人内には介護老人保健施設(老健)があります。患者さんをお預かりする「入所」や「短期入所(ショートステイ)」に加え、ご自宅で生活されている方が日中通うための「通所リハビリ(デイケア)」の機能があります。短時間型の通所リハビリは、外来リハビリから移行される方も多く、ご家族の送迎や、中にはご自身で運転して来所される方もおられます。一方、老健の長時間型の通所リハビリは要介護者の方が多く利用され、個別のリハビリに加えて「食事・入浴・送迎」が提供されることが特徴です。これらは特に人手を必要とする部分であり、介護報酬においても加算や減算のルールが細かく決められています。
私は15年ほど前から、退院後の生活期リハビリに関わるようになりました。病棟で担当し、その後地域で元気に活動されていた患者さんが、年月とともに徐々に能力を低下させていく姿を見るようになると、何とか支えようと関わり続けても、能力の変化が右肩下がりになることが多くありました。「何を目標にすればよいのか?」「生活期におけるリハビリの役割とは何なのか?」と、自問自答する日々が続きました。今振り返ると、当時は通所リハビリを「個別リハビリ(訓練)中心」で捉えており、その役割を十分に理解できていなかったのだと思います。
しかし、コロナ禍を経験し、外に出て人に会うこと、コミュニケーションをとること、そのために身だしなみを整え清潔を保つこと、できるだけ自分の足で立ち、歩くこと、そして口から食事を摂ることなどの大切さを、現場で痛感するようになりました。そうした経験を通して、「食事・入浴・送迎」が持つ本当の意味と重要性が理解できるようになりました。
例えば学校では、もちろん勉強そのものも大切ですが、友達と会うこと、一緒に通学することや給食を食べること、部活動に打ち込むこと、そして何より “通う場”があることが、その後の人生にとって大きな意味を持ちます。通所リハビリもこれと同じで、送迎の際の移動や、食事・入浴といった日常の活動の中で、最大限“自分の力”を発揮しながら活動することが、最大のリハビリ効果を生むのだと思います。これらはどれも人手がかかるケアですが、生活機能や生活空間を保ち続けるための「鍵」であることが実感できるようになりました。
一見すると負担の多い仕事ですが、リハビリ病院や施設にとって、給食、入浴、清掃や送迎などを支えてくれる方々は欠かせない存在です。多くは地元のパート職員の皆さんに支えられており、年々人が集まりにくくなっているのが現状です。しかし、これらは単なる業務ではなく、地域に住む多くの方々を支えるための重要な役割なのです。
その意義を私たち自身がしっかり理解し、言葉にして“熱く”語ることで、学生や地域の方々が少しでも共感してくれ、医療・介護の現場で「働いてみたい」と思ってくれる人が一人でも増えることを願っています。
今後も地域の皆様に、質の高い医療・介護、そしてリハビリをお届けできるよう、職員一同力を合わせて取り組んでまいります。本年も大変お世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いします。