当たり前のレベルアップ(3)
ごあいさつ

病院長
以前このブログで「当たり前のレベルアップ」についてお話ししました(2018年6月、7月)。今回はその「当たり前」を続けることの難しさについてお話しします。
今年のプロ野球は、セ・リーグでは阪神タイガースが独走で2年ぶりに優勝し、パ・リーグはソフトバンクホークスが日本ハムとの争いを制して2年連続のリーグ優勝を果たしました。残念ながら地元広島カープは今年もシーズン中盤以降に低迷し、すでに来季に向けた準備が始まりました。
どのチームにも長い年月の中で浮き沈みがあります。プロ野球のこの30年間で、2連覇を果たしたチームは多くありますが、3連覇を達成したチームは数えるほどです。“勝つ”ことができても、それを“続ける”ことは至難の業なのでしょう。特にFA制度やメジャーリーグへの主力選手の移籍が活発になって以降、“勝ち続ける”ことがさらに難しくなったように思えます。しかし、理由はそれだけではないようです。
昨シーズンの終盤、前年までオリックスをリーグ3連覇に導いた中嶋聡監督が退任を決断したことは、大きな驚きを持って受け止められました。2020年のシーズン途中から就任した中嶋監督は、長らくBクラスに低迷し2年連続最下位だったチームを、翌年には25年ぶりのリーグ優勝へと導きました。その並外れた観察眼や記憶力、当日のコンディションなど様々な要素をもとに日替わりでオーダーを組み、勝利を掴んでいくその姿は“ナカジマジック”とも称されたほどです。若手の紅林選手や2軍でくすぶっていた杉本選手、内野手転向を勧めた宗選手らを我慢して起用し続け、育成を進めながら常勝チームを作り上げました。
しかし優勝の立役者だった、吉田正尚選手や山本由伸投手が相次いでメジャーに移籍し、昨年は優勝争いに絡めないまま5位に沈みました。育成した選手の成長や、監督の手腕を持ってすれば、翌年も十分戦えると誰もが考えていた中での退任でした。この時退任理由として語られたのは、戦力や選手育成の問題ではなく別のことでした。
「当たり前のことを、当たり前にできなくなったのはみんなの責任でもある。これを繰り返しちゃいけない」。監督就任後、チームに課した約束は、「全力疾走」や「攻守交代時のダッシュ」といった“当たり前”を1年通してやることでした。派手さはなくとも、当時最下位だったチームは貪欲に、ひたむきに、外国人助っ人も含めて全員がシーズン最後まで「当たり前」の全力疾走を続けました。そして“当たり前”が根付いたチームは、1990年代の西武以来30年ぶりの3連覇という偉業を成し遂げました。しかし、3連覇翌年の昨シーズンは「どれだけ言っても改善されなかった」と振り返り、「今まで通りやったとしても人は慣れる。その“慣れ”の部分が今年はより強く出てしまった」と退任発表で明かしました。中嶋野球は育成力やコンディショニング、柔軟な選手起用ばかりが注目されましたが、その強さの真髄は“マジック”ではなく、チーム全員が同じ意識で「当たり前のことを、当たり前にやっていた」ことにあったのです。
当法人の春の新人研修でも、「研修中に印象に残ったこと」として、多くの人が「凡事徹底」という言葉を挙げます。当たり前のこと(凡事)でも手を抜かず、徹底してやり抜くというこの言葉は、社会に出たばかりの新人にはとても響くようです。しかし張り切って始めたことを、“当たり前”としてやり続けるのは簡単なことではありません。その先には悪い意味での「慣れ」や「形骸化」といった壁が待ち受けています。
入職から半年が過ぎ、新人たちもそろそろ“慣れ”が出てくる頃です。この壁を一人で乗り越えるのは容易ではありません。仲間や先輩と声を掛け合いながら「当たり前」を継続していくことが唯一の道ではないでしょうか。
「当たり前のことを当たり前にできるように、そしてそのレベルを上げること」。簡単ではありませんが、組織の質を高めるために、職員全員で声を掛け合いながら、この“当たり前”をさらにレベルアップさせていきたいと思います。
