変わらなくちゃ!

ごあいさつ

西広島リハビリテーション病院
病院長
岡本 隆嗣
はじめまして!このブログは患者さん、ご家族の方、一般の方、そして職員にも、 当病院のことをもっと身近に感じていただきたいという思いで作りました。 日々の出来事の中で私が思ったことをつづっていきたいと思います。

 2週間にわたって行われたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)は、最後の最後に、大リーグで同じチームに所属するスーパースター同士、日本代表の“球史に残る二刀流”大谷選手とアメリカ代表の“メジャー現役最強打者”トラウト選手との直接対決という、夢のような舞台が用意されていました。世界中が固唾を呑んで見守る中、大谷選手が見事にこの大勝負を制し、日本が3度目の優勝を果たしました。

 過去2回の世界一は、2006年第1回大会の福留選手(準決勝に代打で登場し先制ホームラン)、2009年第2回大会のイチロー選手(決勝戦で勝負を決める適時打)と、いずれも不振だった日本の中心選手の劇的な一打が優勝への流れを作りました。今回も1次リーグ全試合で4番に座った“日本の最年少三冠王”村上選手はわずか2安打しか打てず、前後を打つ好調な大谷選手と吉田選手の間で打線の流れが切れていました。準決勝のメキシコ戦、1点を追う9回裏の絶体絶命の状況の中で、極度の不振に苦しんでいた村上選手にサヨナラ適時二塁打が飛び出しました。4番村上選手の復活でチームは勢いづき、決勝戦でも村上選手は見事に弾丸ライナーのホームランを2階席に打ち込みました。

 

 村上選手はWBCのキャンプ参加前のインタビューで、「どんな時も常に新しい自分を目指して成長し続ける、“進化し続ける”ことが大事」と答えていました。村上選手はプロ1年目の宮崎キャンプで、“戦後初の三冠王”故野村克也さんから「王の記録なんか破っちゃえ、とりあえず俺の記録を破れ」と激励を受け、期待のこもった言葉を胸に努力を重ねてきました。村上選手を含めてプロ野球史上8名しかいない三冠王同士、相通ずるものがあったのでしょう。昨年野村克也さんのシーズン52本塁打に並んだときは、ホームインの瞬間にまるで野村さんに報告するように、手を合わせて天を見上げました。

野村克也さんの名言の1つに、「進歩とは変わることである」という言葉があります。変わる勇気を持て、それが成長を促す、と選手に説いていたそうです。村上選手の「進化し続ける」姿も、変わる勇気、変わる意識を持ち続けた結果ではないかと思います。野村さんの激励から5年、村上選手は球界を代表する、日本の4番打者に成長しました。

 

 当法人の行動指針のスローガンは『かわらなくちゃ!』ですが、この啓発ポスターには「脱・カバ」とカバの絵が書いてあります。これは先々代の病院長K先生の経験が基になっています。

先生は学会で上京した際、上野動物園にパンダが来ているというので他の先生達と見に行ったところ、パンダは人が多くてわずかな時間しか見ることができませんでしたが、丁度カバの所に行った時に、市民がカバに売っていたコッペパンを投げ入れていたそうです。生きるため、自らエサを取りに動く野生のカバとは違い、動物園のカバは口を空けているだけで、口の中にストライクで入ったパンだけモグモグと食べ、外れたパンには見向きもせず、知らん顔をして次を待っていました。外れたパンは水槽の中に放置されたままでした。

 丁度、K先生が脳神経外科医として現場の第一線に立ち、若手医師を指導している頃の話で、「私が教えることだけなく、自分でも本を読んで、苦労して知識を身につけて下さい。動物園のカバのようになるな。与えられた情報だけを自分のものとして頭に入れるな!」とよく言っておられたそうです。自ら行動を起こして知識や経験を手に入れることの重要性を当院に赴任さられてからもこのエピソードを交え、よくお話されていました。

 当法人の行動指針には「かわらなくちゃ!!」の言葉とともに、「脱・カバ」というカバの絵がかいてあります。「自ら変わる意識を常に持ち続け、自ら行動し、少しずつ、一歩ずつでも進歩しなさい。」というK先生の熱い思いをこの話と絵にこめて、毎年法人の行動指針のスローガンとして職員に伝え続けています。

 今月、当法人が大変お世話になったK先生は残念ながらお亡くなりになりました。在任中のK先生のスピーチをあらためて振り返ってみると、今読んでも十分通じるほどの新しさと、毎回のスピーチが的確なのに驚かされます。何より内容にぶれがなく、「かわらなくちゃ!!」と我々に言い続けたK先生の信念は、最期まで変わりがありませんでした。

職員一同、K先生のご冥福をお祈り申し上げます。