生きる“力”(1)

ごあいさつ

西広島リハビリテーション病院
病院長
岡本 隆嗣
はじめまして!このブログは患者さん、ご家族の方、一般の方、そして職員にも、 当病院のことをもっと身近に感じていただきたいという思いで作りました。 日々の出来事の中で私が思ったことをつづっていきたいと思います。
今年もあと数日を残すばかりとなりました。毎年この時期になると、ある患者さんのことを思い出します・・・。
地元のかかりつけの先生から、80代の嚥下(飲み込み)障害がある患者さんの相談がありました。「実は退院後から食事がほとんど食べられていません。どんどん体重が落ちて、栄養状態が悪くなっています。胃ろうなどのチューブ栄養を提案したのですが拒否されました。点滴だけ何とか承諾してもらい、水分のみ補給できている状態です。何とか助けてもらえませんか?」という内容でした。
後日私は嚥下のリハビリを担当するST(言語聴覚士)と一緒にお家に伺い、喉の中を見る内視鏡(嚥下内視鏡)で飲み込みの評価をさせてもらいました。ゼリーやムース状のものなら何とか食べられそうでしたが、それだけでは必要な1日のエネルギー量には足りません。しかしご本人は「口から食べられるだけで良い。もう生きる気力はなくなった。チューブの栄養で長生きして妻に迷惑をかけるのは嫌なんだ。」とキッパリ言われました。
その後私は3ヶ月ごとにご自宅に伺い、嚥下内視鏡検査や食事の様子を確認しました。栄養状態は相変わらず“低空飛行”のままでしたが、ご家族や訪問看護師さんの協力もあり、何とか誤嚥による肺炎を起こさずに過ごされていました。本人の話から、どうやら楽しみなのはお孫さんの成長と大好きなカープの試合のようでした。その年のカープは3位に滑り込み“初”のクライマックスシリーズ(CS)に進出。真っ赤に染まった甲子園で阪神に連勝し、意気揚々と東京ドームに乗り込みました。東京ドームでは3連敗を喫し、日本シリーズ進出はなりませんでしたが、今後の活躍を予感させるようなシーズンでした。
一方身体の動きはそれほど低下していませんでしたが、どんなに頑張っても1日1,000Kcalに満たない食事量です。さすがに1年が過ぎると痩せてきたのが目に見えて分かるようになりました。ご家族からは「本人の意思を尊重したいが、このまま段々と動けなくなっていくのを見るのは辛い。かかりつけの先生にお願いして、先日から訪問リハビリで定期的に身体を動かしはじめました。」と話がありました。私は「栄養が入らないまま身体を動かすのは、ガソリンを入れずに車を動かすのと同じ。そのうちガソリン代わりに自分の脂肪や筋肉を分解してエネルギーを作るようになってしまう。一時的に栄養状態が改善するまでで良いから、鼻からチューブを胃に入れて栄養剤を入れることをもう一度考えてみてはどうか?」と再度提案しましたが、やはり本人の意思は固く、その姿勢は変わりませんでした。
しかし2014年12月27日を境に、「俺は胃ろうを作ってもう少し生きていたい」と言い始めたと言うのです。何があったのかとてもびっくりしましたが、その日は患者さんだけでなく、我々カープファンにとっても忘れられない日になりました。
(次回につづく)
今年はクラスター感染を経験するなど、辛く大変な時期もありました。しかし職員の頑張りはもちろんのこと、皆様の温かいお言葉や励ましにより、何とか乗り越えることができました。この場をお借りして皆様に感謝申し上げます。また来年も職員一同頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。

それではよいお年を!