リモートコミュニケーションの課題 (2)

ごあいさつ

西広島リハビリテーション病院
病院長
岡本 隆嗣
はじめまして!このブログは患者さん、ご家族の方、一般の方、そして職員にも、 当病院のことをもっと身近に感じていただきたいという思いで作りました。 日々の出来事の中で私が思ったことをつづっていきたいと思います。
前回、リモートコミュニケーションは、便利で効率的であることについてお話ししました。今回は続きになります。
「脳を鍛える・・・」で有名な、東北大学の川島隆太教授の著書に、このような記述があります。
対人コミュニケーションにおいて、実際に誰かの顔を見て話をすると前頭前野は大いに働くが、電話やテレビ会議システムを使って話をさせても前頭前野は働かない。その場に相手がいないので、気を遣う必要もなく、遠くの人にわざわざ会いに行くこともないので非常に楽で便利。すぐ目の前に人がいると相手の気持ちを察知して、時には先回りして気を遣い、場を円滑にしようと自然と努力をする。これはヒトしか行わない行為であり、前頭前野の機能をフルに必要とする。未発達な乳幼児は、相手の気持を理解して(空気を読んで)コミュニケーションすることができない。ITがこうした空気を読む努力を不要にしてくれると、大人でもコミュニケーション時にわざわざ前頭前野を使う必要がなくなり、乳幼児のようになってしまうのかもしれない。
川島隆太 著「スマホが学力を破壊する」集英社新書(2018)
人類は便利さを追求し、そのおかげでテクノロジーが発展し、便利な世の中を実現してきました。しかし便利になるということは、我々はもしかしたら長い歴史で培ってきた対人コミュニケーションというスキルを失い始めているのかもしれません。脳機能、特に前頭葉(前頭前野)の活動を測定する専門家の川島教授は、研究結果でそのことを示し、警鐘鳴らし続けておられます。病気や事故により前頭葉の損傷を負った患者さん達を多く診療する機会がある我々にとっても、前頭前野の機能が失われていくことの重大性が痛いほどよく分かります。
今年度の、当法人の新入職員研修でも、感染対応のため集合研修をなるべく避けようと、一部講義やグループワークにリモートを併用しました。特に今年の新人たちは、昨年学校で使っているので、その技術は見事なものです。しかし一方で、実習が軒並み中止になったため、実際の患者さん達と直接話をする経験はほとんどありません。そのことも今から経験し、学んでいかなければなりません。
今後のリモートコミュニケーションが発展していく時代においても、相手の表情や雰囲気を見ながらのリアルなコミュニケーションを大切にする。その第一歩は挨拶です。また大勢の聴衆を前にした発表や、会場で直接議論や質疑応答を行う、あの独特の緊張感を、是非若い人たちにはこれから多く経験して欲しいと思います。