若いうちの苦労は…

ごあいさつ

西広島リハビリテーション病院
病院長
岡本 隆嗣
はじめまして!このブログは患者さん、ご家族の方、一般の方、そして職員にも、 当病院のことをもっと身近に感じていただきたいという思いで作りました。 日々の出来事の中で私が思ったことをつづっていきたいと思います。
2014年10月12日、後がない状態で迎えた阪神とのCSファーストステージ第2戦。0-0で迎えた7回表、一死満塁というしびれる場面の甲子園に登場したのは鈴木誠也選手でした。今年は4番を任されるほど成長した鈴木選手ですが、この年はまだ出てきたばかり。36試合で本塁打1本の成績で、この日のスタメン起用も驚きました。シーズンをかけたこの大チャンスに、当時の野村謙二郎監督は代打を出しませんでした。結果はサードゴロに倒れ、カープは結局敗退し、シーズンを終えました。
 この時の心情を野村前監督は著書の中で、「苦いかもしれないが、彼にとっては最高の経験だ。いつか彼が押しも押されもせぬレギュラーになった時、あの打席で打てなかった悔しさが僕をこうさせてくれました、という発言を聞きたいと思う。この悔しさをバネに汗水垂らしてバッドを振り続けてくれれば、僕はそれで十分だ…」と書いています(野村謙二郎著「変わるしかなかった」)。
先日、若手の職員を対象に「症例報告のまとめ方」という講義を行いました。当院の看護部やリハビリ部では、2年目になると全員が、経験した症例の院内発表を行います。もちろん2年目の発表なので、学術的な素晴らしい成果を望んでいるわけではありません。「自分が経験し考えたことを、時間内に相手に伝わるように話をする」、それが目標です。でも初めての発表を控えた2年目の職員の表情はこわばっていました。とてもプレッシャーになっているのでしょう。
人間誰でも、「上手くやりたい」、「失敗したくない」、「褒められたい」、「恥ずかしい思いをしたくない」、など思います。しかし私としては、「一生懸命にやった結果の失敗」を経験して欲しいと思っています。失敗は若さの特権です。中堅・ベテランになってからでは、本人のプライドを傷つけ、良くない方向にいくことがしばしばあるからです。
 鈴木選手ではありませんが、若いうちのそういう悔しい経験が、その後の姿勢を変え、将来の成長に結びつくのではないかと思います。その時は苦しいかもしれませんが、後から振り返れば、きっとターニングポイントになるはずです。
 私も2年目で学会発表の準備をしている時、どうしてこの評価を記録しておかなかったのだろう、と悔しい思いをしました。客観的なデータが無く、発表で他人を十分に納得させることができませんでした。しかし初めて自分の仕事をじっくり振り返ることで、気づかせてもらったことがたくさんありました。その経験は今につながっていると感じています。「若い時の苦労は買ってでもせよ」という言葉がありますが、若いうちにこのような経験をすることに意味があります。逃げずに立ち向かった時の苦労は、この先きっと役に立つでしょう。数年後の彼らの成長が楽しみです