医療における「質」とは?

ごあいさつ

西広島リハビリテーション病院
病院長
岡本 隆嗣
はじめまして!このブログは患者さん、ご家族の方、一般の方、そして職員にも、 当病院のことをもっと身近に感じていただきたいという思いで作りました。 日々の出来事の中で私が思ったことをつづっていきたいと思います。
少し前の話ですが、近所にものすごくはやっているパン屋さんがあると聞き、立ち寄ってみました。お店に入るとすぐにその理由が分かりました。店員さん達は大きな声で挨拶し、元気が良く明るい笑顔、清潔感のある店内、お客さんが多くて忙しそうでしたが、皆テキパキと働いており、食べる前からすでに「美味しそう、また来たい!!」と思いました。同時に、「このお店は質が高い。このパン屋さんが評価される要因は、味だけではなく、それ以外の部分も大きい」と感じました。パン屋さんにとってのパン作りというのは、材料を購入して作るだけではなく、それを販売し食べてもらい、再びお店に来ていただくまでの一連を言うのでしょう。
「医療の質」を評価する時によく用いられるのは、「構造」「過程」「結果」という3つです。例えばリハビリの病院で考えると、「構造」は施設の広さや職員の数、「過程」はどんなリハビリをどれだけ行ったか、「結果」はどれだけ良くなったかなどが当てはまり、これらの数字が保険診療上の「質」を測るものとして現在導入され、医療にかかる費用に影響しています。つまり、味を測る「甘み」や「うまみ」などの尺度を決めて測定し、それによりパンの値段が決まっているようなものです。

しかし、我々医療側が評価されるこれらの「技術的な質」が、患者さんが感じる「質」の全てではないことは、冒頭の例からも明らかです。患者さんにとっての医療というのは、治療に付随するもの、環境や接客の部分も当然含んでいます。医療者は「技術的な質」にばかり目が行きがちですが、お客さんはむしろこういった「アメニティ」「人間関係的要素」といった部分を非常に重視していると思います

 

英国の看護師ナイチンゲールは、次のように言っています。「看護とは、新鮮な空気、陽光、暖かさ、清潔さ、静けさを適切に整え、それらを活かして用いること、また食事内容を適切に選択し適切に与えること…」。まさに患者さん個人の治癒力を最大限に引き出すための「環境」を整える大切さを説いています。
我々のリハビリ医療では、患者さんには受け身ではなく、どれだけ「能動的」に動いてもらうかにかかっています。「リハビリを頑張ろう」という気持ちを持ってもらうためには、リハビリに取り組む環境や食事の美味しさ、我々の笑顔や声かけが「質」の重要な要素となるのではないでしょうか。
さらに、ナイチンゲールが凄いのはこれだけではありません。彼女は1858年に院内感染率などによる「医療の質」管理を提唱し、1861年には英国における主要病因の死亡率のデータを出し、「組織」としての質改善に取り組んだと言われています。 彼女は「アメニティ、人間関係的要素、技術的要素」、どれも患者さんの改善に欠かせない要素であることを知っていたのです。