ピンピンコロリ(2) ~PPKの条件~

ごあいさつ

西広島リハビリテーション病院
病院長
岡本 隆嗣
はじめまして!このブログは患者さん、ご家族の方、一般の方、そして職員にも、 当病院のことをもっと身近に感じていただきたいという思いで作りました。 日々の出来事の中で私が思ったことをつづっていきたいと思います。
先月、認知症の研修会を受講してきました。加齢による脳の変化が関係しているため、まだこの薬で治るとか、これだけやればよい、というような治療薬や治療方法は見つかっていません。しかし、認知症に関しては近年多くの研究がなされており、認知症を「予防」することに関してはいくつかの研究から分かってきていることがあります。
 特に生活習慣に関しては、その結果に共通する点があります。それは「運動」・「食事」・「社会参加」です。すなわち、毎日しっかり歩き、庭仕事などで手足を動かすこと、魚・乳製品を主体にタンパク質を積極的に摂り、緑黄色野菜を中心に200g/日以上摂ること、そして前回もお話したように、引きこもらず地域活動などで役割を持ち、人と接する機会を増やす、ことです。
 今のところ「予防が最大の治療」と言えます。
当法人では、病院を退院した後の患者さんや、自宅で介護が必要になった患者さんを対象に、介護保険による「訪問リハビリ」や「通所リハビリ」を行っています。私がこれらを中心に診療するようになり、10年以上が経過しました。
 入院中のリハビリとは違いすぐに結果が出るわけではありません。またリハビリを頑張っておられても、年月には勝てず、段々と能力が低下していくこともあります。担当し始めた頃は、「どうやったら良くなるか」と悩み、「訪問や通所リハビリの役割って何なのだろう」と自問自答しました。その間残念ながらお亡くなりになった方もおられます。申し訳ない気持ちで一杯でしたが、経験を重ねると、「最後まで元気だったのはリハビリのお陰です」とご家族から声をかけて頂くことが増えました。
リハビリを続けておられた方は、亡くなる直前までお元気に、すなわち「ピンピンコロリ(PPK)」の印象が強く、気になって昨年度のデータを調べてみました。
 リハビリを始めたきっかけは、脳卒中や骨折、肺炎などの急な病気やケガ、また心臓や呼吸の問題からくるしんどさや、痛みや認知症で次第に生活機能が衰えた、など様々でした。しかし皆に共通していたのは、最後まで「自分の足で歩ける」、「自分の口から食べる」、そして「外に出て人と交わる」ということでした。もちろん介助で歩ける方、柔らかい食事を食べておられた方、家族と車椅子で外出の方も含みます。
 これは冒頭で述べた、認知症予防の生活習慣にも通じることです。PPKの定義や条件は人によって様々だと思いますが、これらの点が大事なのかもしれません。
我々は、まず患者さんがベッドから離れられるようにリハビリを開始します。そして身の回りのことができるように、家の中のことができるように、さらに外に出て活動ができるように関わります。すなわち生活している空間を広げていきます。生活空間が広がると、「外に出て人と交わる」頻度が増えます。このように右肩上がりの時はリハビリの目標が立てやすいのですが、やがてどこかでそれが下り坂になります。その時は目標を立てるのに苦労することがありますが、本人の力だけに限定せず、家族や制度・地域の力を借りながら、先ほどの「歩行、食事、社会参加」という3つの条件や、「ベッド上、家の中、近所、市街地」など生活している空間を考えることで、リハビリの幅や目標が広がるような気がしてきました。
 生活を支え、一人でも多くPPKが達成できるよう、これからも頑張ります。