初心忘れるべからず[3]

ごあいさつ

西広島リハビリテーション病院
病院長
岡本 隆嗣
はじめまして!このブログは患者さん、ご家族の方、一般の方、そして職員にも、 当病院のことをもっと身近に感じていただきたいという思いで作りました。 日々の出来事の中で私が思ったことをつづっていきたいと思います。
前々回、前回と私が最初に受け持った患者さんについてお話しした続きになります。
無事にご自宅へ戻られた後、しばらくして個展の案内をもらいました。退院後、入院中に作製した装具を履いて、奥様と一緒にスケッチに出かけ、その時描かれた作品による個展でした。奥様に手伝ってもらい、キャンバスもうまく張れるようになったと、喜んでおられました。その後も定期的に個展を開催され、左手の絵もだんだん上手になり、大きな展覧会にも出すようになりました。利き手ではないのでさすがに作風は変わりましたが、立派な作品でした。その後連絡が来なくなり、人づてにお亡くなりになったことを聞きました。脳卒中とは関係ない病気でしたが、とても残念なことでした。私は広島に戻ったら、その患者さんの絵を自分の病院に飾りたい、と思うようになりました。

その後私は広島に戻ることが決まり、お別れを言いにお宅に伺いました。描きかけの絵がそのまま置いてありました。奥様に絵を購入したい、と申し出たところ、「主人の絵をいつまでも喜んで見てくれる場所に寄贈したい」と言って頂きました。

 

画商さんが絵を持ってきてくれ、贈呈式を行いました。「この絵は、脳卒中で麻痺になった後、杖と装具でスケッチに行き、ご自分でキャンバスを張り、利き手ではない左手で一生懸命描いた絵です。この絵の前を通る時、先生(患者さん)の話をしてあげて下さい。リハビリを頑張っている患者さん達をきっと励ましてくれると思います。先生(患者さん)の絵をかけさせて頂き、ありがとうございました。」と画商さんが挨拶をしてくれました。足下が悪いところを奥様と一緒にスケッチに出かけ、一生懸命左手で絵を描いている姿を思い出し、自然と涙があふれました。
毎年、新人職員さんにこの患者さんの話をしています。その絵の前を通る時、入院中の患者さんに、この絵のエピソードを伝え患者さんを励ましてもらいたい、と思うと同時に、自分自身の「初心」を思い出してもらいたい、とも思います。我々の仕事の中心には、いつも「患者さん」がおられます。働き始めた時の、その純粋な思いを、いつまでも大切にして欲しいと願っています。