芯のある人
ごあいさつ

病院長
先月、ミステリー作家の東野圭吾さんの訃報を聞き、以前このブログで東野さんの小説『クスノキの番人』に触れたことを思い出しました(2025年1月院長ブログ参照)。当院入口のシンボルツリーであるクスノキが地中深くにしっかりと根を張っている姿になぞらえ、「しっかりした土台を築いて前に進んで欲しい」という思いを書いたものです。
このクスノキの話は、当法人の会長が理念研修の中で、職員に繰り返し語ってくれた話でもあります。大地にしっかりと根を下ろしたクスノキが長い年月をかけて大きくなっていくように、基礎を積み重ね、できることを一つずつ増やして成長して欲しいという内容です。
その会長が、今月末、皆に惜しまれながら亡くなりました。
会長は、クスノキのように地中深く張った「根」と、その上に天まで伸びるような太い「芯」を持ち合わせた人だったように思います。「芯」という言葉は、もともと植物の茎の中央にある髄を指す言葉だそうです。そこから、物事の中心にある、もっとも大切な部分という意味でも使われています。
当法人は、初代理事長のリハビリにかける熱い想いから誕生しましたが、その組織に「理念」という「芯」を植え付け、育ててくれたのが会長でした。
朋和会は40年の歴史があります。40年と短いですが、その間、三つの大きな事件・事故という大きな波を、立て続けに浴びたことがありました。企業も、歴史の長いところは、第二次世界大戦、最近では、東北の大震災、コロナ感染のパンデミックの影響など、企業の存続にかかるような大きな事件事故に見舞われました。その時に「楽して儲ける方法があるよ」とか「手抜きしたってわからないよ」などと、いろいろな誘惑があります。
経営の中に「理念」のない企業は、目先の問題解決のため、安易で非合法なことに手を染めてしまいます。結果、どんな大きな企業でも、崩れるときはあっという間です。信用を失い、二度と立ち上がれない状態になることもあります。一方、到達したい理想の姿を掲げて努力しているところは、揺るがない、しっかりとした信念をもっています。それが企業理念です。困難な状態に遭遇しても、歯をくいしばり、知恵を出して克服していきます。創業者の理想や夢を実現しようとした歴史が、理念には込められています。
また理念とは、仰ぎ見る理想の姿ですが 法人が活動するときには、法人という大きな樹を支える、地中に張ったしっかりとした大きな根であるとイメージしてください。理念がしっかりと地面に根を張っていない企業は、“台風の風”のような外部の力によって根こそぎ倒れてしまいます。
根がしっかり張って、土中から水や養分を吸い上げる力があれば、太い枝も支えられますし、沢山の葉もつけることができます。根が傷んでいると、枝が空洞になったり、葉っぱが黄色になったりしますのでわかります。当法人の樹の太い幹は「リハビリテーション理念」です。
駐車場の入口に大きなクスの木があります。朋和会のシンボルツリーです。幹に手を当てて 枝に茂る葉を眺めてみてください。クスノキを支える根の広がりを感じることができますよ。
会長が教えてくれたのは、芯を持つことだけではありません。相手が誰であっても、どんな出来事であっても、そこから学ぼうとする柔軟さも持ち合わせていました。患者さんやご家族のアンケートから退院後の生活を学び、院内だけでなく他施設のインシデント・アクシデントからも学ぶ。多くの書籍や研修、そして職員の発表にも耳を傾け、得たものを整理して私たちに伝えてくれました。それらを理念教育のためのテキストの改訂に活かす姿は、あらゆるものから水や養分を吸収し、枝葉を広げていくクスノキの姿に似ている気がしました。
“芯”のある人が“芯”のある組織を目指して、理念教育を行うだけでなく、道標になるような理念のテキストを作り、我々職員に遺してくれました。厳しい一面も持ち合わせていましたが、大きな愛情で我々を包んでくれていたように思います。
今年11月に当法人は40周年を迎えます。会長と一緒に祝えないのは残念でなりませんが、法人のスタッフの気持ちを一つにして、「芯」を大切に、これからも前に進んでいきたいと思います。
