技術を言葉にする — 原点から拓く 治療の未来 —

ごあいさつ

西広島リハビリテーション病院
病院長
岡本 隆嗣
はじめまして!このブログは患者さん、ご家族の方、一般の方、そして職員にも、 当病院のことをもっと身近に感じていただきたいという思いで作りました。 日々の出来事の中で私が思ったことをつづっていきたいと思います。

 来月、10月2日(金)・3日(土)の二日間、第8回日本スティミュレーションセラピー学会学術大会を広島で主催します。昨年から準備を進めてきましたが、開催が近づき、最近は職員の発表スライドに目を通す機会が増えています。

 学会発表では、スライドに文字として示す部分もあれば、あえて文字にはせず口頭で伝える部分もあります。最近では動画を使って、動きや治療前後の変化を分かりやすく提示する発表も増えてきました。それでも、何を伝えたいのかを整理し、他の人に伝わる言葉や文章にすることはとても大切です。普段の臨床ではあたり前のように行っていることでも、「どのような患者さんに」「何を目的として」「どのような方法で行い」「何が変わったのか」を言葉にしようとすると、特にリハビリのような動きを中心にした分野では、難しさを感じます。

 

 しかし医学はこうした作業を繰り返しながら発展してきました。自分たちが経験したことを整理し、報告や研究として文章にまとめ、論文として残す。それを他の人が読み、検証し、新たな知見を加えていく。先人たちが経験を言葉にして共有してくれた積み重ねがあるからこそ、私たちは、どれだけ時間が経過しても、遠く離れていても、過去の医学から学ぶことができます。

 元サンフレッチェ広島の名プレーヤーで、指導者としても数多くの有名選手を育ててこられた風間八宏さんの著書に、『技術解体新書 サッカーの技術を言葉で再定義する』という本があります。「止める」「蹴る」「運ぶ」「受ける」「外す」といった、一見すると誰にでも意味が分かるサッカーの技術を、一つひとつ分解し、それが具体的に何を意味するのかを言葉で定義しています。

 例えば「止める」。サッカー経験者でなくても意味は分かります。しかし、足元にボールが止まっても、それで「止める」ことができたとは言えません。風間さんは、「1回のタッチで、次のプレーを何でもできる場所に、ボールをピタッと置く」ことを「止める」と定義しています。言葉で定義した上で映像を見せることで、選手が見るポイントがそろい、共通の認識を持てるようになると説明しています。また風間さんは、技術を「言語化」「映像化」「デモンストレーション」という3つの方法で伝えているそうです。単に「上手い」で片付けず、何が上手いのかを分解し言葉にする。さらに「何回できるか」「どのくらいの速さでできるか」と数値で基準を示す。言葉で定義づけ、映像やデモンストレーション、さらに数値によって具体的に見える形にすることで、個人の感覚だったものを他の人にも伝え、できるだけ同じものを思い描けるようにしていく作業です。

 

 リハビリで「同じものを思い描く」相手は、専門職だけではありません。最終的には、麻痺や筋力低下が残り、それまでとは異なる身体の状態で新しい動きを身につけなければならない患者さんとの共有が大事になります。できない動きを曖昧な指導のまま繰り返すのではなく、動作を分解し、その人の状態に合わせて難易度を調整しながら段階的に練習していきます。「ここを緩める」「しっかり体重を乗せる」「自然に歩く」といった表現だけでは、何を意味するのか曖昧さが残り、他の専門職や患者さんにも十分には伝わりません。治療の中で何を見て、何を変えようとしているのかを、できるだけ具体的に言葉にする必要があります。

 この学会は「スティミュレーションセラピー」、すなわち大脳や四肢体幹へのさまざまな“スティミュレーション”を対象にしています。当院では2010年以降、経頭蓋磁気刺激やボツリヌス療法、リハビリ訓練ロボットなど、新しい治療法や機器を導入してきました。導入当初はどうしても新しい機器や技術そのものに目が行きがちでしたが、それをどのように治療へ活かすのか、そこから得られる“セラピーの進化”こそが重要であることに気づきました。

 

私たちの治療の“原点”は、患者さんの期待に応えること、すなわち機能障害や活動制限を可能な限り改善させることにあります。大脳や四肢体幹への“スティミュレーション”も、単に併用するだけではありません。「どのような状態に、どのように治療するか、いかなる変化をもたらすのか」という“セラピー”を探求することが極めて重要です。このような思いから今回の大会テーマを「原点から拓く 治療の未来」としました。

 個人の中にある経験や感覚も、言葉にすることで初めて共有することができます。新しい技術であればあるほど、それが重要になります。そして共有され、議論されることで、その技術はさらに磨かれていきます。

本学会が、それぞれの現場にある技術や経験を言葉にし、互いに学びながら、治療の未来を考える場になればと思っています。